- Q7. 東京地検のITリテラシーはどんなもんだった?

今でもたまに笑い話として聞くネタは、強制捜査の際、検察の人がヨドバシだかビックカメラだかでDVD-Rを2枚買って来て、これにサーバのデータを全部コピーしろ!(キリッ って言ってきたという話だ。

ライブドアは自社サービス以外にデータセンター事業もやってる会社だ。当時の最小構成のマシンだって40GBか80GB程度のディスクは積んでたし、データセンターはそんなのが上から下までぎっしりとつまったラックが、フロアにぎっしりと列をなしているところだ。自社サービスのサーバだけでも当時から千台は下らなかったはずだ。

それなのに4GBのディスク(を、念のため2枚)って、おうちのパソコンじゃねえんだからwww

まあ百歩譲ってメールやメールサーバ周辺のデータだけが目的だったとしてもだ、なお想定している規模に食い違いがある。だいたいLinuxのサーバにDVDドライブがいちいちついてるはずもないし、いったいどうするつもりだったのか。その調子だと、サーバ筐体見てキーボードとディスプレイはどこだ、と質問したり、ext3のHDDをウィンドウズPCにつないで「読み取れない!暗号化されている!怪しい!」とか騒ぎだしたとしてもまるで不思議ではない。

これ、単なる笑い話じゃなくて、けっこう重要なポイントなのかもしれないと後になって思うようになった。

検察は、あれでもたぶん、ITに最も詳しい人達を選抜して乗り込んできたのだろう。その人達でさえパソコンに毛の生えた程度のマシンを数台押収するつもりの感覚だったのだとすると、もしかして、彼らは情報産業というものが全くイメージできていなかったというか、そもそもITが産業として成り立つということすら感覚として理解できていなかったのではないか。

パソコンでホームページちょちょっとつくってるだけの会社が球団まるごと買収したり六本木ヒルズにフロア借りたりしてると思えば、そりゃ、どんなあやしげな錬金術に手を出してるんだって疑問も出るだろう。

しかも、最初、稼働しているサーバを全部止めろとも言ってきてたらしい。社員の誰かが必死で交渉してそれは回避させたと聞く。交渉したらOKになったというのもそれはそれで捜査の手順としては手探りすぎる。ビジネスがわかってないのか、パソコンルームとデータセンターの区別がついてないのかよく分からないけど、あれだ、今度東電に強制捜索に入る時は、その場で発電所全部止めろって命令してみればいいと思うね。



なので、当時よく見たこんな記事にしても:

「捜索時、メールの一部消した形跡 ライブドア事件」

同社では重要なやりとりがメールで行われており、特捜部は削除を防ぐため、抜き打ちで一斉捜索に踏み切った。しかし、 幹部間のメールの一部が消された形跡があったという。

特捜部は今回の捜索でサーバー内のデータを記録媒体にコピーして持ち帰ったとみられ、今後、 こうした情報も使って通信状況やメールの内容の復元を進める考えだ。

(元記事は朝日新聞デジタル)

実情はもっとお粗末なものだったであろうことは想像に難くない。
前回も書いたように、メールは一日に何千通も届くのが普通なので、個人のPCでは片っ端から消していく設定にするのが基本だ。どうせ、押収したノートパソコンに数ヶ月より前のメールが見当たらなくて、すわ証拠隠滅だ!と浮き足立ったとか、そんなレベルの話じゃないだろうか。

そして上の記事中の「サーバー内のデータを記録媒体にコピーして持ち帰った」というのが、くだんのDVD2枚分のなにかだと思うのだが、果たして一体何を持ち帰って、どう役立てたのやら…



彼らは本当に、法律以外はITも経済もただの素人で、マスコミ報道の印象だけでストーリーを組み上げていたのかもしれない

当時のマスコミといえば、「当番組ホームページにメールが寄せられました」みたいな、基本的なITの用語も仕組みも理解してないことがまるわかりの言い回しを平気で電波にのせたりしていたし、ライブドアやIT産業全体のことを「虚業」と(自分のことを棚に上げて) 評するのも大変お気に入りの様子だった。※1

皆が当て付けのように「ものづくり」とか「額に汗して働く」とかいった言葉を口にした。
それらの言葉の前に「お金で買えないものはないと豪語し、ネットだけで時価総額世界一をめざしたホリエモンはあのザマですが」という枕詞が暗黙のうちについていることは、容易に想像できた。

あれから5年。額に汗して「ものづくり」に勤しんでいた人達はどうなったんだろうか。

虚業が株価を競うことよりも、形あるものを額に汗して作ることの方が大切だと今でも言えるだろうか。

サムスンには抜かれ、アップルにもグーグルにもなれず、中途半端な衰退まっしぐらな今の日本の産業を導いてきたものこそ、この「虚業」「ものづくり」「額に汗」の三大スローガンだったんじゃないのか。


[追記]
※1 「虚業」という言葉はIT企業に向けられたものではなく、ファイナンス部門の錬金術に向けられたものだという指摘もあろうと思うが、ここなどでも指摘されている通り、Webビジネスは最初のうちは赤字垂れ流しで裾野を広げ、そのあとで広く薄くマネタイズすることで、ようやく収支が合うようになる。
従って、最初の資金は投資に頼る必要があり、若いIT社長が上場して一攫千金、などというのが規定のサクセスストーリーだった。その投資の裾野を広げるためにホリエモンが株式を100分割したことが火種にもなったりしたわけで、これらは基本一体のものだし、実際多くの人は細かく区別して捉えてはいなかっただろう。


ヒルズ黙示録 検証・ライブドア (朝日文庫)
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